研究概要 |
1)神経幹/神経前駆細胞(AHP)への気分安定薬、抗うつ薬並びにモノアミンの直接作用 成体ラットの海馬歯状回からAHPを単離し、その独自の方法で培養系を確立することに成功した。さらに、ストレスホルモンとして知られるグルココルチコイド、抗うつ薬、モノアミンについてAHPを用いてその増殖能への直接作用を検討した。その結果、グルココルチコイドには抑制作用が、リチウムとバルプロ酸はその抑制効果を補正する作用が見出された。さらに、その作用機序にβ-catenin/TCF系を介しcyclin D1の発現を調節する機構が重要であることを明らかにした。一方、SSRI, SNRIを含む抗うつ薬には直接作用は認められず、モノアミンではノルアドレナリンのみが用量依存的に増殖を促進し、その作用はAHPに発現しているβ2受容体を介することを明らかにした。 2)海馬体積と視床下部-下垂体-副腎(HPA)系機能との関連 うつ病(D)群と健常対照(H)群に対してMRIを用いた海馬体積測定とデキサメサゾン(DEX)/CRH抑制試験を行い、その関連性を検討した。その結果、D群ではH群と比較して両側海馬の体積が有意に減少していた。D群の50%(15/30)はDEX/CRH抑制試験において非抑制型(血漿コルチゾール値が5μg/dl以上)を示し、特に女性患者では67%(10/15)と高率であった。一方、H群では12%(3/25)であった。さらに、D群における海馬の体積減少は、非抑制群においてより顕著に認められた。 成体海馬の神経細胞新生はうつ病の治療効果またはその病因に関連すると考えられており、本研究の結果(1)は新しい視点からの新規抗うつ薬開発への提案になったと思われる。コルチゾールが神経細胞新生を抑制することを考慮すると本研究の(2)の結果はHPA系機能亢進と神経細胞新生を結びつける初めての臨床研究となる。
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