研究概要 |
【目的】アルツハイマー型認知症(AD)はうつ状態を呈することがあり、ADとうつ病性仮性認知症の鑑別が困難な場合がある。我々は、先行研究においてMRIの拡散強調画像により、軽度認知障害(MCI)段階のADでも海馬CA1や海馬支脚などの萎縮を検出できることを報告した。本研究の目的は、本方法を用いて高齢者うつ病とADの鑑別が可能か否かを検討することである。【方法】対象は平成18年9月から平成20年12月までの間に、山形大学医学部附属病院精神科に通院または入院中の患者で、本研究の参加に同意を得られた65歳以上の高齢者40名(うつ病18名, MCI 12名, 軽度AD 10名)である。MRIはPhilips社3Tでspine-echo-planar法を用いて、傾斜磁場を前後方向に印加し、第4脳室底に平行な冠状断5mmスライスを撮影した。本方法により磁場と同方向の神経線維は低信号に左右や上下方向に走る神経線維は高信号となり、海馬の内部構造が明瞭に描出される。うつ病, MCI, 軽度AD患者の海馬支脚、CA1の厚さを計測し比較検討した。なお、本研究は山形大学倫理委員会の承認を得ている。 【結果】平均年齢(歳)はうつ病72.8±4.9、MCI75.3±3.3、軽度AD76.3±4.4で差を認めなかった。MMSE得点(点)はうつ病26.8±2.0、MCI25.2±1.4、軽度AD20.1±2.8で差を認めた。右海馬支脚(mm)はうつ病2.04±0.35、MCI1.78±0.23、軽度AD1.62±0.44、右CA1(mm)はうつ病2.03±0.31、MCI1.71±0.33、軽度AD1.75±0.38、左海馬支脚(mm)はうつ病2.02±0.40、MCI1.81±0.44、軽度AD1.49±0.33、左CA1(mm)はうつ病1.89±0.25、MCI1.90±0.25、軽度AD1.61±0.25であった。左右の海馬支脚、CA1はうつ病、MCI、軽度AD間で差を認め、多重比較の結果、右CA1は、うつ病とMCIとの間に差がみられた。以上より、本方法は、高齢者のうつ病とMCIの鑑別には有用である可能性が示唆された。
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