研究概要 |
これまでわれわれは脳機能イメージング(近赤外線スペクトロスコピー:NIRS)によって精神疾患における前頭葉機能障害を捉えてきた。特に統合失調症におけるNIRS信号の前頭葉異常は、全般的な生活機能評価と有意な関連があることを見出した(Takizawa, et. al., 2008)。NIRSは光を用いた安全で非侵襲的な技術であり、自然な姿勢・環境で被検者に負担が少ない検査を実現しているため、将来、精神疾患の臨床場面において、補助診断、薬効予測や症状評価への応用が期待されている。 本研究ではさらに一歩進めて、こうしたNIRS信号の意義を明らかにするため、これまでに統合失調症の認知機能障害との関連についての先行研究があるcatechol 0-methyltransferase (COMT) (val^<108/158>met)遺伝子多型に着目し、完全に非侵襲性な脳機能計測技術(NIRS)と分子遺伝学的分析を双方向に組み合わせ、統合失調症の前頭葉機能異常を明らかにすることを目的とした。 平成18年度から成19年度にかけて、計画通りにさらに被検者数を増やすことができた。サンプル数を増加させても結果に変化はなく、各群で語流暢性課題遂行成績に有意差はないにも関わらず、COMT遺伝子多型のMet carrier群では、Val/Val群に比べて、課題遂行中の[oxy-Hb]増加が大きく、有意差のあるチャンネルを前頭前野に認めた。本研究でも統合失調症の前頭葉機能への神経伝達物質関連遺伝子との関連が示唆された。 こうした結果を、平成19年度に第62回アメリカ生物学的精神医学会(San Diego, USA)等、国内外の学会や雑誌で発表してきた。現在、英文雑誌へ投稿中である。そして今後も、薬効予測・薬効評価につながるNIRSの精神疾患への臨床応用を裏付ける研究を続けていく方針である。
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