研究概要 |
高齢化社会が急速に進んでいるわが国では、アルツハイマー病(AD)を含めた認知症患者の介護負担が問題化している。特に周辺症状(behavioral and psychological signs and symptoms of dementia, BPSD)の存在は、介護場面での負担を大きくし、介護者の負担増に直結する。我々はBPSDの生物学的基盤を明らかにするために、軽度AD患者を対象に、BPSDと血中必須多価脂肪酸(essential polyunsaturated fatty acid, EPUFA)濃度の関連について検討した。その結果以下の点を明らかにした。 1, 患者群において、血中EPUFAs濃度は認知機能の指標であるMini Mental State Examinationを用いて評価した認知機能と正の相関を示す。 2, n-3系EPUFAsはMMSEの成績と正の相関を示し、n-6系EPUFAsは負の相関を示す。 3, Neuropsychiatric Inventory (NPI)を用いて評価したBPSDの程度とEPUFAs血中濃度は負の相関を示す。 4, BPSDの下位項目では、うつ、多幸、無関心の程度と血中EPUFAs濃度が負の相関を示す。 5, NPIの介護負担度と血中EPUFAs濃度は負の相関を示す。 以上のことから、EPUFAsはAD患者の認知機能およびBPSDの発現に関与している可能性が示唆された。さらに血中EPUFAs濃度が介護負担度と負の相関を示したことは、高齢者への食事栄養指導が、ADの発症予防のみならず、介護負担の軽減につながる可能性をも示したと考えられる。
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