研究概要 |
難治性うつ病に対する電気けいれん療法(ECT)の作用機序解明を目的に,ECT臨床例を対象にSPECTによる脳機能画像の変化を測定した.またラットに動物用ECS装置を用いECS処置を行い,放射性トレーサーを用いた脳機能画像の実験を行った. まずラットによる基礎実験ではECS直後には脳血流が上昇するのに対し,糖代謝もグリアによる酢酸の取り込みも低下していたが,その24時間後には酢酸の取り込みが対照群と同等に戻っている事が確認された.4回の反復ECS後24時間では脳血流には変化が見られないのに対し,酢酸取り込みは逆に増加している事が確認された.ECT臨床例におけるSPECT測定では,本年度はECT後半年から1年経過後の測定を行い,ECT直後の変化と比較した.その結果,IMPによる脳血流がECT前には全脳で有意に低下しているのに対し,ECT後には血流量の改善が見られた.また3例の寛解維持症例では,ECT直後に比べその後半年から1年でさらに血流量が増加していることが確認された.一方IMZによるBz受容体マッピングにはECT前後で有意な差は観察されなかった.以上の結果から,単回のECS刺激は直後に脳血流を増加させるにもかかわらず神経細胞,グリア細胞とも一過性に活性を低下させていることが判明した.また複数回の刺激により逆にグリア活性の上昇が生じる事から,代謝酵素タンパクの誘導など何らかの可塑的変化を生じている可能性が示唆された.また臨床SPECTの結果からは,ECTによる脳血流の改善は,一過性のものではなく病態の改善と相関したものである事などが予想され、脳血流測定がECTの治療戦略や効果判定に資する可能性が示唆された.
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