我々は、ミトコンドリア複合体Iのサブユニットをコードする核遺伝子、NDUFV2遺伝子のmRNA発現量を多数の日本人培養リンパ芽球で調べた。25名の双極I型障害患者、11名の双極II型障害患者、および33名の健常者でNDUFV2遺伝子の発現量を測定し比較検討したところ、双極I型障害群においては健常者群に較べて発現量は統計学的に有意に低下していた。これは少数サンプルで調べた我々の以前の報告と同様の結果であった。一方、双極II型障害群では、健常者群と比較して有意に発現量が上昇しており、有意差のみられなかった我々の以前の測定とは異なる結果を示した。発現量の上昇および低下に服用している治療薬の影響は認められなかった。これらの知見は、NDUFV2遺伝子が双極性障害の病因遺伝子であることをさらに裏付ける所見であると考えられた。 また、NDUFV2の機能的多型と遺伝子発現量の関連を比較検討したところ、多型の違いによって発現量に差はみられず、我々が以前報告した双極性障害と関連する一塩基多型は発現量調節には関与していないものと思われた。 さらに4サンプルにおいて、リンパ芽球を気分安定薬である炭酸リチウムおよびバルプロ酸ナトリウムを加えてそれぞれ培養したうえで、mRNA発現量を測定した。その結果、炭酸リチウムを加えて培養したリンパ芽球は発現量においてコントロール群と差はなかったが、バルプロ酸ナトリウムを加えた群は統計学的に有意に発現量が増加していた。この結果は、NDUFV2遺伝子の発現量が低下している双極性障害の患者に対してはバルプロ酸ナトリウムが有効であることを示唆し、同遺伝子の発現量測定が気分安定薬の治療反応性予測因子になりうる可能性があると考えられた。
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