いくつかの研究が双極性障害におけるミトコンドリア機能障害を示唆している。さらに、近年統合失調症においても病態生理学的にミトコンドリア機能異常が疾患と関連していることを示唆する報告がみられている。我々は以前ミトコンドリアComplex Iサブユニット遺伝子NDUFV2と双極性障害の関連を報告した。本研究で我々は、双極性障害において関連を認めたNDUFV2遺伝子の多型が統合失調症においても関連しているかを疾患対照研究によって検証した。その結果、本研究で調べた-3542G>A多型と-602多型について、個々の多型においては遺伝子型、対立遺伝子頻度とも統計学的な有意差は認めなかった。しかし、これら2つの多型によって構成されるハプロタイプは統合失調症と関連していた。 次いで、我々は多数の日本人双極性障害患者、および白人双極性瞳害および統合失調症患者のリンパ芽球を用いてNDUFV2の大規模発現量解析を行った。その結果は我々の先行研究と同様の結果を示したほか、日本人双極II型障害患者では発現量の有意な上昇を、また白人統合失調症患者群では低下を認めた。ただし、NDUFV2遺伝子の多型の違いによって発現量に差はみられず、我々が報告した疾患と関連する多型が発現量調節には関与していないものと思われた。また我々は、バルプロ酸を加えてリンパ芽球を培養することでNDUFV2の発現量が増加することを見出した。我々の先行研究の結果と合わせて、NDUFV2遺伝子の調節領域の多型は双極性障害および統合失調症両者の遺伝的危険因子であることが示された。また、NDUFV2の発現量が低下している患者においては治療薬としてバルプロ酸が有効である可能性を示唆され、本遺伝子の発現量測定が気分安定薬の治療反応性予測因子になりうる可能性があると考えられた。
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