サル大脳皮質帯状回で非空間視覚情報に関する認知機能を細胞レベルで調べた。まず写真呈示課題(様々な種類の事物・顔の写真を呈示する課題)を用いてサルを訓練した。皮質帯状回直上の頭蓋骨に脳定位的に記録用シリンダーを設置し、手術から回復後サルがその課題を遂行中に大脳皮質帯状回で単一細胞外記録を行った。約700個のニューロンが記録され、これらの記録ニューロンを統計学的手法を用いて解析した。記録された大脳皮質ニューロンのうち、約25%のニューロンが写真呈示課題に関連して発射活動を変化させた。そのうち半分のニューロンが事物・顔の属性(形状、色調など)に選択的に反応したが、応答選択性が高いものから低いものまで幅広く観察された。ニューロンが反応する事物・顔の属性の中では、事物・顔の形状に依存して発火頻度が変化するもが最も多く、色調に反応するニューロンも観察された。しかし、事物・顔の大きさの違いに依存して反応するニューロンは見られなかった。事物・顔に対して選択的応答ニューロンの典型的な反応パターンは写真呈示直後のバースト状興奮反応とそれに続く抑制反応であった。一部のニューロンでは、写真呈示中に持続的な興奮性反応を示すものや写真呈示後に興奮性あるいは抑制性反応を示すものも観察された。記録ニューロンの組織学的検索の結果、大部分の記録ニューロンは帯状回およびその周辺領野に位置していた。写真呈示課題に応答するニューロンは、帯状回前部および後部の広範囲で記録されたが、写真に選択的応答を示すニューロンは帯状回前部に偏在していた。前頭前野の主構腹側部から腹外側部いたる領野、下側頭皮質、視床背側内側核内側部でも同様の選択的応答ニューロンが報告されているので、これら4領域が含まれる神経回路網が非空間視覚情報の処理に関与していると考えられる。
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