研究概要 |
課題1)母子分離(NI)のおよぼすPTSD症状(不安・恐怖行動)への影響の解析: NI群はSD雄性ラットを生後2-9日まで1日1時間、母親や同胞から分離した。誕生後涌常の環境下で飼育したものをSham群とした。8週齢でSingle Prolonged Stress(SPS)ストレス負荷を行い、9週目で以下の行動実験を行った。自発運動量の解析にはOpen field locomotor(OFL)試験を行い、48cm四方の場にラットを置き、水平方向の運動量をコンピュータにて5分間計測した。不安の評価には高架式十宇迷路(EPM)を用い、オープンアームとクローズドアームへの進入回数、滞在時間を5分間、計測した。場所記憶に伴う恐怖感の評価は、恐怖条件づけ試験(CFT)を用いた。ラットをスキナー箱に入れ,3分経過後0.8mA、4秒間のフットショックを与え、24時間後に再びラットを同じ箱に入れて、3分間のすくみ行動(呼吸に関連した動き以外無動の状態)時間を計測した。 SPS群はSham群に比べ有意に、EPMでオープンアームへの進入回数や進入時間の割合が減少し、CFTでのすくみ時間も長く、不安・恐怖行動の亢進がみられた。自発運動量に、両群間で差はなかった。 課題2)行動学的にみたNIによる薬物抵抗性PTSDの解析: 課題1)同様の処置を行い、SPS負荷後から7日間、飲水中にparoxetine(PRX)(0.1mg/ml)を溶解して投与後に、上記と同様の方法でCFTを行いすくみ行動を計測した。薬物投与群の対照としては、溶媒であるvehicle投与群を作成した。NI+SPS+PRX群はNI+SPS+Vehicle群と比べて、有意にすくみ時間は短縮していた。NI+SPS+PRX群はSham+SPS+PRX群に比べ、有意にすくみ時間は亢進していた。 本年度の結果は、幼少期の不遇な養育環境が成熟後のPTSD症状を悪化させる可能性や、PTSD治療薬であるparoxetineの効果を阻害する可能性を示唆していると思われる。
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