研究概要 |
課題1)PTSDモデルラットを用いた恐怖記憶の消去障害のメカニズムの解析: PTSDモデルとしてSingle Prolonged Stress (SPS)ストレス負荷を行い、恐怖記憶の形成は恐怖条件づけ試験(CFT)を用い、恐怖条件付け後24,28,72,96,120時間の時点ですくみ行動を計測して恐怖記憶の解析を行った。その結果、SPS群はSham群に比べて、有意に48-120時間後のすくみ行動が亢進していた。海馬NMDA受容体の各subunit mRNA発現をrea1-time PCR法にて計測したところ、SPS群ではSham群と比較して、有意な各subunit mRNA発現の亢進が得られた。SPSラットを対象にCFT直後からd-cycloserineを飲水に混入して経口投与し、恐怖記憶の消去障害に対する効果を検討したところ、CFT後48時間の時点から有意な消去障害の改善効果が得られた。海馬NMDA受容体mRNA発現解析から、この消去障害に対する改善効果は亢進していたNMDA受容体mRNA発現の減少と密接な関連のあることがわかった。 課題2)PTSDモデルラットにみられる恐怖記憶の消去障害に対する母子分離(NI)の影響: NIラット及び正常飼育ラット(Sham群)を対象に、課題1)同様のSPS負荷やCFT処置を行い、CFT後のすくみ行動を検討した。NI群はSD雄性ラットを生後2-9日まで1日1時間、母親や同胞から分離した。すくみ行動の解析の結果、NI+SPS群とSPS群の間で、有意なすくみ行動時間の差は検出されなかった。 本年度の結果は、PTSDにみられる恐怖記憶の消去障害がNMDA受容体発現の変化を介して引き起こされている可能性や、d-cycloserineの治療薬としての可能性を示唆していると思われる。
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