研究概要 |
現在,摂食障害の治療は,専らアルコールなどの薬物依存症に対するアプローチと同様の取り組みがなされており,より生物学的な病態理解と発症予防や治療法の開発が求められている。我々は,摂食障害では食事制限にともなう低栄養状態により2次的に脳内神経回路の維持修復過程に変化が生じ,その結果,行動のコントロール障害として嗜癖行動が出現する可能性を想定している。脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor ; BDNF)は脳内で発見された神経栄養因子の一つであり、その減少が記憶や学習機能の低下につながることが動物やヒトでの研究で報告されており、脳内神経回路網の形成・維持に重要な役割を担うと考えられている。そのため、血清BDNFを測定することで脳内神経情報伝達系の状態を把握することが可能となり、状態評価や薬物療法への応用が期待される。 はじめに,このBDNFが神経細胞や神経幹細胞におよぼす影響について,またBDNFの発現変化に関わるメカニズムについて解析を進め,抗うつ薬や脳由来神経栄養因子(BDNF)を神経幹細胞へ処置することで,神経細胞への分化が促進されることを示すとともに,抗うつ薬の処置で神経幹細胞でのBDNF産生が増加することを明らかとした。さらに,摂食障害の治療において,現在用いられている抗うつ薬について,薬剤の違いによる臨床効果の差異があることについて,種々の神経栄養因子,抗うつ薬,気分安定薬を処置した際の神経幹細胞から新生される神経細胞フェノタイプの発現変化についての解析を行い,各薬物の処置が分化増強する神経細胞が異なるフェノタイプであることを明らかとした。現在,血中のBDNF量の変動,また血小板を用いたCa2+流入,BDNF放出機能動態について解析を進め,摂食障害の病態と脳内神経回路網の障害,修復機構変化のメカニズム解明を実施中である。
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