研究概要 |
摂食障害患者(神経性無食欲症;AN,神経性大食症;BN)では血清BDNF値が健常者に比べて有意に減少しており、BMIとBDNF値に有意な正の相関があることが報告され、記憶・認知機能との関連が深いBDNFの異常と摂食障害の病態との関連が考察されている。そのため、BDNF値の改善は、治療経過に重要な影響を及ぼすと考え、今回我々は,摂食障害患者の末梢血のBDNFを経時的に測定し、その濃度変動が患者の治療経過と、どのように関わるかについて検討を行った。 対象は、札幌医科大学附属病院神経精神科摂食障害専門外来を受診し、DSM-IVによる摂食障害の診断基準を満たした症例のうち、食行動の改善目的に入院加療(行動制限療法)となった7症例[AN5名,BN2名,年齢:29.3±11.6才(17-47)]である。 患者7名のBMIと血清BDNF値の間には、入院直後・退院直前ともに有意な相関は認めなかった。BN患者2名では過食嘔吐の頻度は減少したものの、体重にはほとんど変化は認めなかった。AN患者5名では治療中断例を含め全例で体重の増加を認め、入院直後のBody Mass Index(BMI)は平均12.7±2.0から退院直前には14.5±1.3と回復を認めた。血清BDNF値に関しては、平均14.2±6.9ng/mlから19.4±6.5ng/mlと上昇したが、有意差は認めなかった。AN患者5名の入院期間中の、BMIの変動率とBDNFの変動率の間に有意な正の相関を認めた(r=0.884,p<0.05)。本研究では、入院治療中にBMI値の有意な増加を認めたAN患者群で、血清BDNF値の増加傾向を認めたが,その変化は有意なものではなかった。しかしながら、同患者群のBMI値とBDNFの変動率は有意な正の相関を示したことから、摂食障害の回復の過程にBDNFの増加が何らかに意味があることが推察された。
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