我々は、強迫性障害(OCD)に関する成因研究として、A群β溶血性連鎖球菌感染症など、神経免疫学的側面からの検討を行っているが、リウマチ熱の既往など病歴による方法はリコールバイアスが問題となった。この為、現在さらに三方向から追加調査を行っている。1)小児科と提携しリウマチ熱やショウ紅熱、結節性紅班などのA群β-溶血連鎖球菌感染症と診断されたものの、初診、一ヶ月、三ヶ月、半年、一年後の定期的面接調査、2)OCD患者の若年例に対する面接調査、3)冬季を中心とした季節性増悪を認めるOCD患者の検討である。結果、本邦においては、PANDASが少ない可能性があること、この様な患者には、先ほど述べたsymmetry/orderingなどの常同行為的な強迫様症状を認め、特に若年例の場合には、チック障害、ないし常同運動性障害(Stereotypical Movement Disorder)と、鑑別が難しいこと、リウマチ熱やショウ紅熱、結節性紅班などのA群β-溶血連鎖球菌感染症患者にも、強迫様症状の出現は稀であること、更には通常のSSRI治療には抵抗性であり、少量ながら抗精神病薬などのドーパミン作動性薬剤が有用であること、などの傾向を確認している。この様に現在の我々の見解では、PANDASの独立性に関しての妥当性は不十分であり、チック関連性と考えられる一群との重複が考えられた。しかしPANDAS自体は欧米では確立された疾患概念であり、これの妥当性に関して疑問的に論じる場合、ある程度の例数が必要となる為、今後も継続し報告したい。 一方、本研究の予備的研究として、OCDの次元的分類法である症状軸(symptom dimension)を検討し、その文化差を越えた信頼性や妥当性をAmerican Journal of Psychiatryに報告した。今後この結果をふまえ、精神免疫学的背景との関連性を検討する予定である。またこの様なOCD患者の治療について、非定型抗精神病薬の有効性と安全性を検討し、既に受理されJoumal of Clinical Psychiatryに掲載予定である。この様な治療法の特異性に関しても、更に検討を進めたい。
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