研究概要 |
本研究の主たる目的であった認知症の危険因子としてのうつ病が最近特に注目されている。しかしどのようなうつ病が移行するのかは未知である。われわれは認知症に移行する老年期うつ病の特徴を拡散テンソルMRIを用いた白質変化によってとらえることができるとの仮説のもとで研究を行った。日本医科大学付属病院・千葉北総病院に通院中の60歳以上のうつ病患者および軽度認知障害で,本研究の趣旨を説明し文書同意が得られたものを対象とし通常のMRI画像に加えて拡散テンソル画像も撮影した。拡散テンソル画像の定量的評価については脳梁膝部,膨大部,内包,前頭部,側頭部,頭頂部,後頭部に関心領域(ROIs)を設定し拡散異方値FA値の測定を行った。 うつ病患者はMMSEの得点(26点)をカットオフ値とし26点未満の認知障害合併群8例、26点以上の認知障害非合併群6例、軽度認知障害(MCI)群7例について拡散テンソル解析を行い、既存のアルツハイマー病(AD)群12例とベースライン時点での比較を行った。その結果AD群ではMCI群および認知障害非合併うつ病群に比して脳梁膝部、膨大部、左側頭-後頭部のFA値の低下がみられた。一方AD群と認知症合併うつ病群では脳梁膝部におけるFA値および左内包に有意差がみられたが、脳梁膨大部においては有意な差を認めなかった。このことより認知障害を伴ううつ病はADと同様に脳梁膨大部の白質変化がみられる可能性が示唆されたが、前方領域の白質変化には相違があることが判明したこのことはうつ病とADが独立した脳変化に基づくものである可能性がある。すでに認知障害が進行しADに移行した症例も数例みられるため、次年度以降はうつ病症例の経時的変化についても研究していく予定である。
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