研究概要 |
本研究の目的は,非侵襲的に頭蓋内環境の局所変化を伴う病変の診断に役立てるために,磁気共鳴画像(MRI:magnetic resonance imaging)診断装置で得た画像情報から脳局所の動的弾性を評価することである。 昨年度は,pallalel MRIとhalf scanを併用して脳のbulk motionが影響しない極短時間(約3ms)でデータサンプリングしても,全白質の拡散係数(ADC:apparent diffusion coefficient)は心周期において有意に変化し,ADC波形は頭蓋内容積変化波形と同調することを実証した。また,頭蓋内容積変化は,MRIによる頭蓋内コンプライアンス導出時の入力成分であることから,脳局所における観の変化量(ΔADC)が頭蓋内コンプライアンスすなわち容積弾性係数(または挿展性)に関係することを示した。そこで今年度は,脳の局所弾性の指標を確立するために,心周期における脳局所のΔADCの変化および頭蓋内容積変化との関係を,正常圧水頭症例を含めて検討した。その結果,脳の弾性が変化する正常圧水頭症では,健常群と比較してΔADCが有意に大きくなり,領域によってΔADCが異なったことから,ΔADCが脳の局所弾性を評価する指標になり得ると結論づけた。さらに,心周期における頭蓋内容積変化波形とADC波形は,同-パターンで同期していたにもかかわらず,頭蓋内容積変化の大きさとΔADCは相関しなかったことから,頭蓋内容積変化(入力)あたりのΔADC(出力)も脳自体の力学的特性の情報を得られることが判明した。 次年度は,測定精度の向上,撮像条件の最適化および測定時間の短縮化を図りながら,鑑別診断とシャント手術の適応が困難とされている特発性正常圧水頭症例に対して脳局所弾性解析を行い,その有用性を検討する予定である。
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