目的)本研究は、最小限の副作用で最大限の治療効果が期待できる低侵襲的閉鎖循環下抗がん剤灌流療法の開発および治療システムの完成を目的として行われた。 方法)過去の研究成果から門脈血を効率よく全身系へ戻す新たな医療機材を開発し動物実験を行ってきたが、上腸間膜静脈からの血液のリターンを十分に全身系へ戻すことは困難であったため循環動態が不安定(血圧降下)であった。今年度は対処法として門脈内に2本のシースを挿入して(門脈内2ルート法)今までのシステムを改良し、ブタ3匹(体重40kg)に対し低侵襲的なInterventional radiology(IVR)の技術のみを用いた灌流療法の実験を行った。実験内容は肝動脈・門脈・下大静脈をバルーンカテーテルにて閉塞して肝の閉鎖循環システムを作成し人口心肺装置3台を使用して30分間の抗癌剤灌流実験を行い、循環動態に及ぼす影響と抗癌剤灌流後の肝・腎・消化管等の障害の有無及び障害の程度の検討を行った。 結果)門脈内2ルート法を用いた肝灌流療法での血圧降下は軽度で灌流システムも機能した。また、肝・腎・消化管(大腸・小腸)の障害の有無を病理学的に評価した結果、肝・腎には有意な障害は見られなかったが小腸においては1匹で軽度の浮腫が認められた。 考察と結論)当療法の問題点は上腸間膜静脈からの血液のリターンを十分に全身系へ戻すことが困難であることだが門脈内2ルート法を用いた肝灌流療法により循環動態の安定を維持することが可能であった。一歩一歩、確実に新治療が実現されつつあるものと考えられた。肝腫瘍に対する抗がん剤灌流療法システムは動物実験上ほぼ完成したと考えられた。今後は臨床応用に向けさらなる安全性の確立を進めたいと考えている。
|