研究概要 |
平成20年度は、中性子線照射を予定していた日本原子力機構研究炉JRR4がトラブルのため運転を休止したため、予定していた中性子照射実験は全て取りやめとなった。平成18年度、平成19年度における悪性胸膜中皮腫モデルマウスを用いての基礎的検討と平成17年に1例アスベスト誘発悪性胸膜中皮腫に対する硼素中性子捕捉療法(Boron neutron capture therapy,以下BNCT)の臨床経験を踏まえて、本年度は、今後予定している手術不能悪性胸膜中皮腫に対するBNCT臨床試験のプロトコル作成のための治療計画研究を施行した。この治療計画研究においては、京都大学原子炉実験所に設置されるサイクロトロン加速器によるBNCT(加速機BNCT)の有用性を京都大学原子炉実験所研究炉における原子炉によるBNCT(原子炉BNCT)と比較検討した。悪性胸膜中皮腫6症例の治療計画結果を解析し照射時間、腫瘍、周囲正常組織の線量分布を比較した。線量制限として、患側肺の平均線量を5.0 Gy-Eqに設定した場合、腫瘍への平均線量は原子炉BNCTで19.9 Gy-Eq、加速器BNCTで20.2 Gy-Eqあった。加速器中性子源では、原子炉中性子源の約4.3倍の線源強度が達成されていることから、総照射時間に大きな差異を認めた。原子炉BNCTの照射時間が平均135分に対し、加速器BNCTでは平均30分の照射時間であった。加速器BNCTは原子炉BNCTにおいては、体位再設定の時間を考慮しても1時間以内で治療の終了が可能であることが判明した。多方向照射が必要である悪性胸膜中皮腫に対するBNCTとして加速器BNCTは臨床的に極めて有望であり、加速機を中性子源にすることにより既存の医療施設においてBNCTを施行することの将来展望が開けたといえる。
|