我々は、熱ストレス(身体を温める)で誘導されるHeat Shock Protein(HSP 70)の生体防御作用を検討し報告してきた。本年度は昨年度に続き、予めマイルド全身加温することにより誘導されるHSP70によるストレス耐性(ストレスに対する防御効果)を、進行性尿路上皮癌のM-VAC化学療法というストレスに対しての患者への副作用の軽減効果で検討した。さらに、マイルド加温療法による抗腫瘍効果の増強作用の基礎的検討として、ヒト膀胱癌細胞のT24細胞を用いて、温度感受性、各種抗癌剤とマイルド加温療法との併用効果を検討した。 1.倫理委員会で承認された泌尿器系M-VAC化学療法とマイルド全身加温療法の併用療法の臨翔症例数を増やした。 1)骨転移、癌性腹膜炎、多発性リンパ節転移のある膀胱癌重症症例へのマイルド加温併用により画像上の骨転移の消失、癌性腹膜炎の消失、リンパ節転移の消失とPR(90%縮小)の評価を得た。 2)膀胱癌で周囲組織への浸潤、多発性リンパ節転移のため手術不能の症例へのマイルド加温併用により、手術可能となった。摘出膀胱は肉眼的には腫瘍は認めなかった。 3)腎盂、副腎への転移、多発性リンパ節転移の膀胱癌症例へのマイルド加温の併用により、腎機能の改善、転移、膀胱癌の縮小により、腎、膀胱の摘出手術が容易になった。 【結論】その他の約10症例に対しても、程度の差はあれ、腫瘍縮小効果が認められた。また、骨髄抑制を認める症例はあったが、消化器系副作用は殆どが軽度であった。 2.ヒト膀胱癌細胞T24に対する抗癌剤とマイルド加温併用効果をin vitro実験で検討した。 1)ヒト膀胱癌T24細胞も他の細胞と同様、43℃以上の加温で生存率が低下した。 2)各種抗癌剤とマイルド加温を併用した結果、特にシスプラチン、アドリアマイシンで、マイルド加温併用による抗腫瘍効果の増強効果が著明であった。 3)放射線とマイルド加温の併用により、放射線単独に比し放射線増強効果を認めた。 また、適した抗癌剤のない甲状腺髄様癌に対してもマイルド加温単独で抗腫瘍効果とQOLの改善効果を認めた。 【結論】これら基礎研究により、シスプラチン、アドリアマイシンを含むM-VAC化学療法がマイルド加温併用により臨床例においても有効である実験的検証が得られた。
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