研究概要 |
エラスターゼ注入ラット動脈瘤モデルに対して,bFGF含有ゼラチンスポンジシート(Gelatin sponge sheet: GSS)を用いて,大動脈瘤の進展に対する影響を検討した。 18年度までの結果を踏まえて,非治療群,GSS治療群,bFGF 100 ng含有GSS (bFGF+GSS)治療群の3群において14日間の治療を行った。14日目の大動脈径はGSS治療群ならびにbFGF+GSS治療群において,非治療群と比較して大動脈径の拡大が有意に抑制されていた。病理組織学的所見ではbFGF+GSS治療群において最も弾性線維,中膜平滑筋細胞数が保たれていた。GSS単独治療群においても,病理学組織学的所見に改善傾向を認めたため,内因性のTGF-b,bFGFの免疫染色を行ったところ,GSS治療群とbFGF+GSS治療群両者で陽性細胞を多く認めた。また,RNA発現の検討では,bFGF+GSS治療群におけるMMP-9のRNA発現が,他の2群と比較して有意に低下していた。さらに,エラスターゼを75分注入したモデルにおいて治療効果を検討したところ,非治療群では50%に大動脈の破裂を認めたのに対して,bFGF+GSS治療群では破裂率は22%と半減していた。 以上の研究より,低用量のbFGFだけでなくGSSそのものもラットAAAの進展を抑制する効果を持っていることが明らかとなった。GSSは分解される過程で内因性の成長因子の産生を誘導し,これが大動脈瘤の進展を抑制する1つの要因であることが示唆された。また,bFGFは平滑筋細胞の増殖を促進し,さらにMMP-9のRNA発現を抑制することによって,弾性線維の破壊を抑えていた可能性があり,これらにより破裂を抑制している可能性が示唆された。
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