本研究の目的は、心停止後摘出肝の温阻血時間を類洞狭小化防止と微小循環の面からアプローチし延長させることである。 【実験I】(方法)Wister ratを心停止させ60分後全肝を摘出。血栓溶解目的にウロキナーゼを注入し10分後4℃の保存液で灌流し8時間単純浸漬保存した。その後37℃の酸素化KH液を60分灌流し、門脈圧、胆汁産生量、AST、肝重量などを測定した。保存液としてHTK液(H群)、およびUW液(U群)を用いた。正常肝の灌流を対照群とし、TUNEL染色でアポトーシスの程度を検索した。(結果)ウロキナーゼ注入で肝のviabilityは改善した。灌流門脈圧はH群、U群とも対照群に比し有意に高かった。胆汁産生量は各群とも対照群に比し少ないが、H群でU群より多かった。AST値に有意差はなかった。TUNEL染色ではH群の方が陽性の肝細胞が多かった。【実験II】(方法)実験Iの結果から温阻血時間が60分より短い方が差が出やすいと考え30分とし、またトレハロースを主成分とするET-Kyoto液(ETK:E群)を導入し実験Iと同様の方法で検討した。(結果)灌流門脈圧はE群で最も低かった。胆汁産生量は各群とも対照群(12.2±1.4μl/g肝hr)に比し少ないが、E群で最多であった(1.4±0.5μl/g肝hr)。酸素消費量はE群が最多でU群より有意に多く、AST値はE群で最も低かった。8時間単純浸漬保存後の肝重量はE群で最も少なかった。 【結語】心停止後摘出肝の保存ではUW液の組成は不利であり、またアポトーシスの抑制は必ずしも肝のViability改善につながらないことが示された。HTK液と比べETK液の優位性が示されたが、グラフトとして使用可能なViabilityの保持には至らず、心停止後摘出肝を用いた肝移植の実用化のためには、さらなる臓器保存方法の改良が必要と考えられた。
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