人工血管を用いた膝下膝窩動脈以遠への下肢動脈バイパスの長期成績は不良である。人工血管内腔の仮性内膜が血管内皮細胞に被覆(内皮化)されず、早期の血栓性閉塞、および、晩期の吻合部内膜肥厚を来すことが、主な原因である。これに対し、血管内皮細胞を人工血管に播種するハイブリッド人工血管が考案されたが、成熟・分化した血管内皮細胞は増殖能が低いため、臨床応用には至らなかった。増殖能の高い幹細胞もしくは前駆細胞を用いて人工血管の内皮化を達成すれば、臨床成績の向上に大きく寄与できると考えられる。幹細胞の供給源として、骨髄細胞、末梢血単核球由来内皮細胞など、国内外からの報告があるが、骨髄由来幹細胞の採取には全身麻酔が必要であり、一方、末梢血由来幹細胞は細胞数が少ない。脂肪組織由来幹細胞は、局所麻酔下に大量に採取可能で、脂肪、骨、筋肉、軟骨など多くの間葉系細胞に多分化能を有し、増殖能も高いことが知られているが、最近、内皮系の細胞へも分化しうることが報告された。従って、脂肪組織由来幹細胞を内皮細胞系へ分化させ、人工血管に播種させれば、理想的な小口径人工血管となる可能性がある。本研究では、内皮細胞系へ分化可能な脂肪組織由来幹細胞を用いた小口径バイオ人工血管の開発を目的とした。平成18年度は、脂肪組織由来幹細胞の採取と脂肪組織由来幹細胞の内皮細胞への分化と内皮機能の評価を行った。脂肪組織由来幹細胞の採取は、ラットの皮下脂肪組織より脂肪細胞を採取し、collagenase digestion法による幹細胞培養を行い、少なくとも5継代目までは増殖能を有することを確認した。現在、継代培養を行った細胞の内皮細胞への分化の確認(フローサイトメトリーによる細胞表面の抗原の発現の評価)と内皮機能の評価(内皮細胞より産生されるNOおよびPGI_2の定量)を行っている。
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