研究概要 |
アデノウイルス(Adv)が感染した細胞内ではdsRNA-activated protein kinase(PKR)の活性が上昇し細胞内でのAdv増殖を抑制する。これに対して、Advは細胞内PKRと結合しPKRを不活化するsmall RNAの1種類であるVAIを産生し、宿主のAdv排除機構からエスケープする。PKRを発現しているHEK293細胞を用いてAdvを調製した場合、野生型VAIを転写するAdv(Adv-wVAI)が感染した細胞においては、細胞の増殖に伴いAdvも増殖し細胞傷害活性を示した。一方、変異型VAIを転写するAdv(Adv-mVAI)を細胞に感染させた場合、細胞は傷害されることなく増殖し、Advを増幅・回収することが出来なかった。そこで、レトロウイルスを用いて活性型ras(H-ras)を293細胞に導入しPKR活性を抑制させた状態でAdv-mVAIを感染させたところ、細胞傷害活性を示しAdvを調製することができた。この効果を野性型rasを持つ膵がん細胞株BxPC-3の殺細胞効果に応用できるか否かを検討した。50%細胞傷害活性で比較すると、Adv-wVAI 80 MOIに対してAdv-mVAI 8,000 MOIと、初期感染ウイルス量に100倍もの開きがあった。一方、活性型rasを導入したBxPC-3の変異株を用いてAdv-mVAIの50%細胞傷害活性を調べたところ40 MOIであり、親株のBxPC-3で得られた8,000 MOIと比較した場合、200倍低濃度のAdv量で同等の細胞傷害活性を示した。変異型VAI搭載Advをベクターとした遺伝子治療はRas変異/活性化の確立が高い膵がん細胞に対して有効な治療戦略となりうると考えられた。
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