研究概要 |
let-7はmicro RNA(miRNA)で,この発現減弱が,ヒト癌遺伝子K-rasの蛋白の過剰発現を起こすことが報告された.このK-ras蛋白の過剰発現は,様々なシグナル系を介し,腫瘍増殖及び血管新生を促進する.これまでの我々の研究からヒト肺癌ではK-rasの遺伝子変異は少なく,このlet-7発現減弱によるK-rasシグナルの増強が深く関わっていることが示唆された.そこで,我々はlet-7発現誘導ウィルスベクターによる癌遺伝子治療の研究を行っている.まず,ヒト癌細胞株におけるlet-7発現を評価するために,TaqMan MicroRNA Reverse Transcription KitでmiRNAを含むcDNAを作製し,TaqMan MicroRNA Assayによるreal-time quantitative RT-PCRで,様々なヒト癌細胞株におけるlet-7発現を測定した.我々はlet-7発現誘導ウィルスベクターの作製を,shRNA(short hairpin RNA)タイプで行った.let-7のセンス配列とループ配列,アンチセンス配列を含むshRNA配列を,miRNA発現用ベクターであるpBApo-CMVベクターに組込み,let-7発現プラスミドベクターを作製した.このlet-7発現プラスミドベクターをリポフェクション法によりlet-7低発現細胞株にトランスフェクションしたところ,real-time quantitative RT-PCRで,let-7発現の誘導が良好にみられた.そこで,我々は更に良好な誘導を目指し,let-7発現アデノウィルスベクターの作製も行った.このlet-7発現プラスミドベクターからEcoRVでCMV IE promoter+shRNA配列+poly Aシグナルを切り出し,pAxcwitコスミドベクターに組み入れた.そして,COS-TPC法により,非増殖型のlet-7発現アデノウィルスベクターを作製した.その結果,このlet-7発現アデノウィルスベクターにより,細胞株におけるlet-7の良好な発現誘導がみられた.我々はこのlet-7発現誘導アデノウィルスベクターの大量培養と濃縮・精製を行い,担癌ヌードマウスによる遺伝子治療実験を追加検討中である.
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