申請者らは、m-calpainの阻害により細胞死を誘導するためには、その機序を詳細に知る必要があると考え、様々な分裂期異常後の細胞死のモデルを用いて、その分子生物学的な解析を試みた。まず、m-calpainが分裂期に限定分解を行う基質ではないかと考えているKidについてHeLa細胞でRNAiを行った。48時間後の培養細胞の透過光観察で既に核型の異常が認められ、二核や三核を持つ細胞が増加していた。これらの細胞は明らかな分裂期の遅延は呈さなかったが、核異型と細胞質の増大を認め、分裂しないままに分裂期を生化学的に終了して、新たなG1期に突入したものと見られた。さらにそのまま観察を続けると、120時間後には多くの細胞が断片化を伴った細胞死に至った。フローサイトメトリーでも、早期には多倍体細胞の増加、後期にはS期の細胞の減少と細胞死の増加が認められた。また、KidのRNAi処理から72時間後にEg5阻害剤モナストロールで細胞を処理すると、モノポーラー細胞が観察されるものの、コントロールと比べて、中心付近に染色体の存在しない領域がなく、polar ejection forceの低下が認められた。これは、既に報告されている中和抗体を用いた実験と同様の結果であり、申請者らが報告したm-calpain阻害時とも同様である。 このように、m-calpainとKidの関係性は強く示唆されたが、これらの活性や機能を阻害したことで、なぜ細胞死が起こるのかを明らかにせねば、臨床での応用は不可能である。Kidに対するRNAiの透過光観察やフローサイトメトリーの結果から、Kidを阻害すると、細胞は一度多倍体の状態となった後、細胞死に向かうと思われた。多倍体となった細胞がどのような機序で細胞死に至るのかを観察するために、現在より単純に細胞を多倍体化できるモナストロール処理の系を用いた実験を試みている。
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