遺伝子発現プロフィールから生まれた新しい乳癌のサブタイプで予後の悪いbasal-like乳癌がBRCA1の機能異常に起因することがわかり、BRCA1をタンパク質レベルで制御するメカニズムは乳癌の臨床上きわめて重要となっている。平成19年度はこのメカニズムを知る上で重要な因子を同定し、機能解析を行うことを目的とした。しかし、平成18年度に作成したBRCA1抗体がうまく機能せず、新たな因子の同定には至らなかった。そこで本研究ではHERC2の機能を中心に解析し、以下の知見を得た。抗HERC2抗体による免疫沈降とウェスタンブロットによって内因性のHERC2はBRCA1と結合することが確認された。Double-thymidine blockにて細胞周期を同調させたHeLa細胞を用いた実験にてHERC2とBRCA1の結合は細胞周期依存的で、S-G2期にBRCA1の発現が低下している時にHERC2が結合した。HERC2全長をクローニングし、フラグメント解析した結果、C末端の3559-4834アミノ酸(HERC2-CT)がBRCA1に結合した。一方、BRCA1のフラグメント解析をした結果、HERC2はBRCA1の分解を誘導するdegronと呼ばれるドメインの一部65-167に結合することが判明した。また、HERC2の2292-2923は核内に局在し、それ以外のフラグメントは細胞質に局在すること、内因性のHERC2は主に細胞質に局在するが、Crm1阻害剤であるレプトマイシンBによって核内に移動することから、細胞質、核内を移動するシャトルタンパク質であることがわかった。以上よりHERC2はBRCA1を細胞質に移送して分解するユビキチンリガーゼである可能性が示唆された。
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