研究概要 |
乳癌には、ホルモン療法が最初から無効な症例や治療初期にはホルモン療法に反応するものの経過とともに抵抗性となる症例があり、臨床の場において大きな問題となっている。ホルモン療法抵抗性獲得のメカニズムに関しては、多くの仮説は存在するものの決定的な原因はみつかっていない。また、抵抗性克服を目指した基礎研究は少ない。研究代表者らは、「低酸素微小環境などのストレスが腫瘍細胞における血管新生因子発現や増殖因子シグナル伝達を亢進させ、乳癌のホルモン依存性を消失させる」との作業仮説を立て、実験的な検証を行ってきている。 まず、ホルモン療法抵抗性乳癌細胞を作製するためホルモン感受性細胞株KPL-1,KPL-3Cを抗エストロゲン剤(fulvestrant)添加した培地で長期間培養した。両細胞株において、形態の変化や増殖能の亢進が見られ、さらにestrogen receptor(ER)発現の低下、human epidermal growth factor receptor(HER)1の発現やシグナル伝達の亢進、HER1/HER2チロシン燐酸化阻害剤lapatinibに対する感受性の増加がみられた。また、lapatinibを用いホルモン療法の効果増強作用に関する基礎的な研究では、ER高発現HER1/HER低発現KPL-1,KPL-3C細胞において、lapatinib単独の抗腫瘍効果は弱いが、fulvestrantを併用することで、相加的な抗腫瘍効果(p21/p27の発現増加と細胞周期遅延、survivin/Bc1-2の発現低下とアポトーシス誘導)が確認された。また、本研究に関連し、免疫組織化学的手法を用いた乳癌のサブタイプ分類を行い、日本人の乳癌において、ホルモン感受性が高いluminal Aタイプの頻度が高く、治療抵抗性のbasal-likeタイプの頻度が低いことが示された。
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