研究概要 |
【目的とこれまでの経過】poly-ADP-ribosylation(以下PAR)はDNAの複製や細胞のapoptosisと関連し,発癌への関与が報告されている。特に,これまで種々の癌腫において約113kDaの蛋白質がPARを受けることが知られている。そこでわれわれは,このPARとヒト大腸癌の発癌、進展との関連を明らかにするために,細胞質画分でPARを強く受ける約113kDaの蛋白質に注目した。本研究ではこの113kDaの蛋白質の精製、同定を試み,この蛋白ならびにPARの意義と診断、治療への応用の可能性を検討した。 【方法】当科で切除された大腸癌手術標本から癌部および正常粘膜組織を採取し,粗精製は陰イオン交換カラムを用いたクロマトグラフィーで行った。粗精製された蛋白質の解析はTOF/MSにて行い,免疫沈降法により蛋白の同定を試みた。PARのレベルは[adenylate-^<32>p]-nicotinamide adenine dinucleotide(NAD)を用いて測定した。さらに,gp96蛋白そのものの発現量やPARを担う酵素poly(ADP‐ribose)polymerase(PARP)の発現量をWestern blottingにて調べ,癌部と非癌部で比較した。 【結果】ヒト大腸癌組織の細胞質画分において約113kDa蛋白質は特に強くPARを受け,TOF/MS解析と抗gp96抗体を用いた免疫沈降法により,この蛋白質はtumorrejectionantigengp96であると確認された。さらにこの蛋白質が受けるPARのレベルは,非癌部に比して癌部で増強している傾向が認められた。PARPの発現量も非癌部に比して癌部で増強していたが,gp96蛋白の発現量は,癌部と非癌部で差を認めなかった。 【考察と展望】本研究は,ヒト大腸組織においてgp96がPARを受け,そのレベルやPARPの発現量が非癌部に比して癌部で強いことを初めて示した。よって,このgp96のPARは,ヒト大腸癌の発癌や進展に関与している可能性がある。また,gp96ならびにPA鯉は抗癌剤の標的蛋白としての臨床応用が期待されており,本研究結果はそのために有用な情報を提供し得ると思われる。今後,ヒト大腸癌治療におけるPARの役割も解明していきたい。
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