研究概要 |
本年度は核酸・葉酸代謝酵素であるチミジル酸合成酵素(以下TS)の遺伝子型とTS遺伝子座におけるアレル欠失(loss of heterozygosity、以下LOH)を大腸癌症例を対象に解析し、その予後因子・抗癌剤感受性因子としての臨床的意義を検討した。大腸癌246例の癌組織および近傍正常粘膜組織を対象としてTS遺伝子の5'非翻訳領域に存在するvariable number of tandem repeat (VNTR),G/C single nucleotide polymorphism (SNP),およびTS遺伝子座のLOHを総合的に解析した。226例においてVNTR, SNP, LOHのすべての情報を得た。日本人において2R alleleは低頻度であり、2R allele内のSNP解析は意義が低いと考えられた。そこで、2R内のSNPは考慮せず2R,3G,3Cのalleleに分類し、TS遺伝子型解析の臨床的意義を検討した。LOHを含めた遺伝子型の頻度は2R/2R,3;2R/3G,11;2R/3C,20;3G/3G,13;3G/3C,34;3C/3C,14;2R/loss,26;3G/loss,58;3C/loss,47であった。TS遺伝子型と臨床病理学的諸因子間に有意な関連を認めなかった。TS LOHは右側結腸癌、粘膜癌で低頻度であった。TS LOHを認める症例は有意に予後不良であり、18番染色体長腕のLOHと相関する変化であった。TS LOHを認めた症例では、3C/lossの予後が不良であったが、術後補助化学療法を受けた症例ではその予後は他の遺伝子型(2R/loss、3G/loss)と同等であった。これらの結果より、TS遺伝子型判定にはLOH解析が不可欠であり遺伝子型の予後因子・感受性予測因子としての臨床的意義はLOHの有無別に検討する必要があると考えられた。
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