研究概要 |
排便反射は、直腸を適度に加圧伸展させたときに発生する、直腸-直腸収縮反射(R-R反射)および直腸-内肛門括約筋弛緩反射(R-IAS反射)が同時に起こることにより生じる。両反射は(1)骨盤神経を介する仙髄レベルの促進反射、(2)結腸神経を介する腰髄レベルの抑制反射および(3)壁内神経系を介する内反射によって制御されている。外来神経(結腸神経)を温存したモルモット直腸切離(切除)吻合モデルでは、術後R-R反射は変化しないが、R-IAS反射は著明に低下した。しかし、その後は経日的に回復し、8週間後には無傷のモルモットと同等のR-IAS反射がみられた。組織学的には、術後2週間で壁内神経切離断端から神経線維の再生所見がみられはじめ、8週間では、吻合部を越えて口側と肛門側を連絡する神経線維が観察された。排便反射の機能回復と一致する組織学的な壁内神経再生所見が得られ、直腸吻合術後の正常な排便反射の発生には切断された壁内神経の再連絡が不可欠であることが示された。本年度は、壁内神経再生促進作用について、脳由来神経栄養因子(BDNF)を吻合部に局所投与した場合の排便反射に与える効果について検討を行った。吻合部へのBDNF局所投与によりR-IAS反射の早期回復がみられ、組織学的にも、壁内神経切離断端からの神経線維増生が促進され、術後2週間で吻合部を連絡する神経線維を認めた。さらに、BDNF局所投与例の吻合部では、NF,TrkB,DLX2陽性細胞数が有意に増加していた。さらに、BrdU陽性のNF陽性細胞も認めた。術後4週で、DLX2陽性、TrKB陽陸細胞数は減少していたが、壁内神経細胞数は変わらず、ネットワーク形成への兆しが見られた。以上の結果より、吻合部にBDNFが作用し、神経幹細胞の動員、新神経細胞への分化により、壁内神経細胞数が増加したことが示唆された。
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