研究概要 |
粒子径が癌細胞に近い蛍光ビーズを手術前日に使用する事で癌細胞に類似したリンパ管への流出動態を反映する事を期待し、蛍光ビーズ使用に同意の得られた胃癌症例に対し胃癌センチネルリンパ節(SN)同定を行いその有効性について検討した。手術前日、病変粘膜下4箇所に蛍光ビーズを1mlずつ注入、手術時紫外線照射し蛍光発光したリンパ節を蛍光ビーズSNとした。同時に術中、漿膜側からICGを注入しICG・SNの同定も試みた。蛍光ビーズに限定したSN同定率は74.1%であった。早期胃癌25例に限ると蛍光ビーズSN同定率は76%、同定された平均SN個数は2.3個、正診率は94.7%であった。早期癌症例で術中併用したICGと蛍光ビーズを合わせたSN同定率は92%、平均SN個数は3.1個、正診率は95.4%であった。早期癌症例で蛍光ビーズSNの分布を原発巣の部位別にみたところ、上部(U)は1例のみで1群リンパ節にのみ認めた。中部(M)14例では1群リンパ節に76%,2群に24%、下部(L)5例では1群に88%、2群に12%の率でSNを認めた。1例で偽陰性を認め、ICGを併用してもSN以外に転移を認めた症例であった。この転移を認めたリンパ節は、SNの存在するリンパ節領域(station)外にあった。早期癌症例での転移陽性例は、この偽陰性症例1例のみであり、症例数も少ない事から正診率の評価は困難と思われ、多数例での検討が必要であると同時に微小転移という点からの検討も必要と考えられた。そこで、摘出された全リンパ節に対し抗サイトケラチン(AE1/AE3)を用い免疫組織染色を行い微小転移の検索を行った。早期胃癌25例中1例に微小転移を認めた。その1例の微小転移の位置はSN station外であった。しかし、当院の過去の胃癌症例で、微小転移の有無が予後に及ぼす影響を検討したが、微小転移の有無のよる生存率の有意差は認められず、微小転移の有無が予後に大きな影響を及ぼすとは考えにくかった。また、SN同定方法に関して、術野に紫外線照射して蛍光ビーズの発光を試みたが、脂肪組織深部にあるリンパ節は不明瞭であった。加えて脂肪組織、神経など自己蛍光発光を示す組織がありリンパ管との判別を惑わすことがあった。現段階では、蛍光ビーズを臨床応用することは不可能と考えられるが、今後術中紫外線照射を可能にする機器の開発や、他のトレーサーとの併用で臨床応用の可能性あると考えられた。
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