拡大肝切除を安全に行うためには手術に伴う肝臓の虚血への耐用時間を延長することで確実・丁寧に手術を進められる無血術野を長時間確保する事が重要である。今まで我々はストレス応答を利用したストレス前処置法による肝虚血耐性獲得の研究を行ってきた。今回の研究ではストレス応答時に活性化する転写因子、NF-E2-related factor 2(Nrf2)や細胞内シグナル分子に人為的操作を加えることで細胞内にストレス応答を惹起させ、ストレス前処置に変わりうる非侵襲的なストレス感受性細胞内シグナル分子の修飾法が肝虚血再灌流障害の軽減に寄与するか検討することを目標とした。 まずPPAR gamma agonistであり細胞内酸化ストレスを誘導することが知られている15-delta prostaglandin J2(PGJ2)と抗発癌剤として注目され、抗酸化遺伝子の発現を誘導するOltiprazがNrf2を活性化しうるか検討した。長期継代培養が可能な肝構成細胞である肝上皮細胞および星細胞をratの肝臓から分離、それぞれの薬剤で刺激したところ、両細胞ともPGJ2でNrf2が活性化されることが細胞免疫染色にて確認された。また、Nrf2の活性化によって誘導されるHeme-oxygenase 1(HO-1)の発現もWestern blotにて確認された。ところがPGJ2刺激前にNACを加えておくことでPGJ2によるNrf2の活性化とHO-1の発現が認められなくなることから酸化ストレスが関与していることが示唆された。 そこでPGJ2をC57/BL6マウスの尾静脈から投与し、その3時間後に70%領域の肝虚血を行いその1時間後に再灌流させ、6時間目の肝障害をコントロールと比較してみたところ、肝虚血再灌流障害はPGJ2投与によって著明に改善されていた。現在Nrf2が肝虚血再灌流障害改善に寄与しているか解析中である。
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