研究概要 |
亜鉛代謝を中心に膵広範切除後の脂肪肝(NAFLD)および非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の病態生理を明らかにし,かつNAFLD発生予防と治療法の開発をめざすために,以下の臨床的研究を行った。 <対象と方法>2005年4月から2008年10月までに当科で施行した膵広範切除(膵頭十二指腸切除)54例を対象とした.術後CT値が40HU以下となった症例をNAFLDと定義し、術前後のCT値を比較した.重症NAFLDにはNASH除外のため肝生検を行った.周術期の様々な因子から多変量解析にて術後NAFLDの危険因子を検索した.術後NAFLD発生例では、膵酵素剤大量補充療法に亜鉛製剤やグルタミン製剤などの補助栄養剤を追加した治療が行われた積極的栄養療法群と、通常栄養療法群に分けて治療後のCT値を比較した. <結果>術前後でCT値は63.5±7.4HUから43.5±21.9HUに有意に低下した.NAFLDは37.0%で発症し、2例は肝生検でNASHと診断された.NAFLDの危険因子解析から、膵癌か否か、膵切除量、術後下痢の有無,膵線維化の有無,術後摂食状態の5項目が危険因子と判明した. 術後NAFLD予測スコア(各2点,計10点)を策定したところ,スコア6点以上では83.3%でNAF LDが発生した.NAFLD発生例の栄養療法では、積極的栄養療法群(n=12)では91.でCT値が改善されたが、通常栄養療法群(n=8)では12.しか改善しなかった. <結語>NAFLDは膵広範切除後高率に発生し、NASHへと移行する症例も認めた.NAFLD予測スコアは発生予測に有用で,スコア6点以上では亜鉛投与を含めた積極的な栄養補助療法が不可欠である.
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