研究概要 |
カルチノイド腫瘍、乳癌、大腸癌、神経内分泌癌、子宮頸癌、膵臓癌などにおいて、小型ロイシンリッチプロテオグリカンの一種であるlumicanの過剰発現が報告されている。乳癌組織において癌周囲のlumican発現が組織学的分化度、エストロゲン受容体の発現や発症年齢と関連し、進行大腸癌においては、lumicanの癌細胞における発現がリンパ節転移の広がりや癌の深達度と関連する傾向があることが明らかとなった。膵臓癌培養細胞系(PANC-1,MIAPaCa-2,KLM-1,Capan-1,PK-1,PK-8)において、lumican mRNAとlumicanタンパクの発現がみられた。膵癌細胞内のlumicanタンパクは分子量37-100kDであったが、培養液中のlumicanは主に60-70kDであった。この分子量の違いは、結合する糖鎖の違いによることが糖鎖切断酵素による解析で明らかとなった。膵臓癌組織ではlumicanは53例中30例(57%)の癌細胞に局在がみられ、53例中36例(68%)の間質組織に局在が認められた。膵臓癌細胞にlumicanが陽性の症例では、臨床病理学的因子との関連はみられなかったが、陰性例に比べ予後が良い傾向がみられた。一方、間質組織のlumicanの局在と女性、進行度、後腹膜浸潤、十二指腸浸潤、切断端での癌陽性には関連がみられ、間質にlumicanが局在している症例では間質のlumican陰性例に比べて予後が悪い傾向がみられた。これらの結果より膵臓癌においては、癌細胞内におけるlumicanと癌周囲の間質組織におけるlumicanは異なった糖鎖を有し、間質内の60-70kDのlumicanが癌細胞の浸潤や予後に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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