研究概要 |
前年度の本研究において,食道癌患者検体の癌細胞HLA class I発現は癌組織CD8^+T細胞浸潤と相関し,癌組織CD8^+T細胞浸潤は良好な患者予後と相関すること,一方MICA発現およびNK細胞浸潤と患者予後は相関しないことを見出した。即ち,CD8^+T細胞が食道癌の免疫監視に重要であり,HLA class I発現低下は食道癌の免疫監視回避機序の一つであると考えられた。本年度は昨年度からの研究を継続し,癌の免疫エスケープに重要な分子をさらに見出すと共に,免疫監視エスケープ機構を克服する技術の開発を目指した。 ヒトの重要な癌抗原のひとつである癌精巣抗原NY-ESO-1に対するT細胞免疫応答を検討し,CD4^+ T細胞へのNY-ESO-1抗原提示機構を解析した。日本人に多いMHC class IIの多形であるDRB1*0405,0901,1502といった多種類のMHC class II分子によって提示されるNY-ESO-1タンパク由来のプロミスカスな抗原エピトープペプチドを同定した(Cancer Sci.,2007)。 我々は腫瘍抗原特異的なT細胞レセプター遺伝子導入マウス由来T細胞を用い,腫瘍のT細胞療法の実験系を確立している。この系を用い,腫瘍の成長と共に腫瘍内CD25^+Foxp3^+制御性T細胞(Treg)が増加し,同時にT細胞療法の効果が低下すること,さらにT細胞療法の際にT細胞共活性化分子GITRを刺激することにより腫瘍内Tregを減少させ,T細胞療法を増強することを見出した(基盤的癌免疫研究会2007東京,CRI symposium 2007 NY,日本癌学会2007横浜,日本免疫学会2007東京)。従って,GITRを始めとする共活性化分子を,抗体、遺伝子導入法等により刺激する方法が,Tregをはじめとする腫瘍の免疫監視エスケープ機序を克服する有望な技術となることが示唆された。
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