本研究は、(1)生体吸収性scaffoldを用いる、(2)multi-potentialな細胞ソースである骨髄細胞を播種する、(3)細胞成長因子を徐放して細胞の分化・誘導を行う、という新しく開発された組織工学的手法を血管壁の再生で実現するという新しい試みであり、平成18年度は初年度として人工血管の基本的なデザインの決定と動物実験での基礎的な検討を行った。 1)胞成長因子を徐放する生体吸収性scaffoldを用いた人工血管のデザイン・開発 ポリグリコール酸の線維メッシュを芯材として、乳酸とε-カプロラクトン50:50の重合体で構成される多孔質体で血管壁を作成した人工血管を元にした(スタンダードグラフト)。細胞成長因子として血管新生作用がある塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を用いることにした。bFGFの徐放に適する素材としてゼラチンが有効であると判断して、乳酸-ε-カプロラクトン重合体と混合して試作した。ゼラチン:乳酸-ε-カプロラクトン重合体を1:1にすると人工血管壁の強度の低下が著しいため、1:4で作成することに決定した(ゼラチン混合グラフト)。 2)ラット心臓への植込みモデルの確立 小型動物用レスピレーターを用いて、全身麻酔・人工呼吸化に胸骨正中切開を行って心臓を露出した。右室流出路にクランプをかけて、パッチ状にした人工血管を縫着した。コントロールとして非吸収性の人工血管として広く用いられているePTFEの移植を行った。長期生存が可能であった。 予備実験で、bFGFを含浸させ、ラット骨髄細胞播種をしたスタンダードグラフトと新しく開発したゼラチン混合グラフトの血管新生効果を植え込み2週間後で比較したが、後者では前者に比べて有意な血管新生効果が認められ、ゼラチンを血管壁に混合することはbFGFの徐放効果を発現させることが判明した。
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