骨髄細胞移植後の心機能改善効果の作用機序は、移植細胞から産生された液性因子による血流改善作用、心筋保護作用、心筋remodeling抑制作用などによるものと考えられる。しかし、今までの研究報告のほとんどが骨髄細胞移植後の臓器レベルの分析に留まっており、細胞レベルの解析による作用機序の解明はまったく進んでいない。本研究ではin vitroで単一心筋細胞レベルでの解析を行い、生体内の組織因子の影響を受けない液性因子による心機能改善効果の作用機序(paracrine mechanisms)を調べることを目的とした。 本年度はラット心筋梗塞モデルを用いて、骨髄細胞から産生される因子(培養上清)の心機能改善効果の有無を調べ、その作用機序について検討した。Wistarラットから採取した骨髄単核球細胞は通常培養(95%air、5%CO_2)あるいは低酸素培養(1%O_2)を行い、24時間後に両培養上清を採取した。左前下行枝(LAD)結紮によりラット心筋梗塞モデルを作製した直後に通常培養および低酸素培養後の上清20μlを左室自由壁5カ所に、結紮2、4、6日後には0.5mlを腹腔内に投与した。なお、骨髄細胞を培養していない培地をcontrolとして投与した。経胸壁心エコーで心機能を評価したところ、結紮7日後において通常酸素および低酸素群の左室収縮率はcontrol群に比べて有意に増加していた。結紮28日後の心臓標本を用いての組織学的解析では、control群と比較して、通常酸素および低酸素群における毛細血管密度の増加と線維化面積の減少が認められた。 以上の結果から、骨髄単核球細胞から分泌される様々なサイトカインは血管新生を促進するだけでなく、直接心筋細胞に働きかけ、梗塞で低下した心機能の改善をもたらすと考えられた。
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