研究概要 |
クロム労働者の前癌病変におけるhMLH蛋白の発現の検討 1983年吉澤らは、肺癌の検診目的にて、83名のクロム工場の労働者に気管支鏡を施行した。気管支鏡下に生検を施行した。273生検材料を得、H.E.染色を行い、病理医によって6項目の組織診断((1)異型上皮、(2)扁平上皮化生、(3)杯細胞増生、(4)基底細胞増生、(5)基底膜の肥厚、(6)正常多列線毛上皮)を判定した。(四国医学雑誌40:123, 1984)この中から、X線分析顕微鏡を使用し、クロムの蓄積量を測定した15例(異型上皮2例、扁平上皮化生7例、基底細胞増生4例、杯細胞増生2例)について、Catalysed Signal Amplification system法にて免疫染色を施行した。抗hMLH1抗体(clone G 168-728, Pharmingen)を300倍希釈し、2 overnightでincubationした。 顕微鏡下に、腫瘍細胞を200個のうち、核染している腫瘍細胞の数を数えスコア化した。 None(0%), Scant(<35%), Moderate(35%≦, ≦70%), and Diffuse(>70%) None,Scant群をhMLH蛋白の発現低下とした。 Scant群は7例,Moderate群は4例,Difhse群は4例であった。 hMLH蛋白の発現低下率は、異型上皮2例(100%)、扁平上皮化生4例(57%)、基底細胞増生1例(25%)、杯細胞増生0例であり、異型上皮と扁平上皮化生でhMLH蛋白の発現が低下する傾向を認めた(Fisher, P=0.084)。 hMLH蛋白の発現低下群と正常群でクロム酸蓄積量の有意な違いは認めなかった(5.98±8.52 and 8.92±9.14, p=0.55)。 異型上皮と扁平上皮化生は中心性肺癌(扁平上皮癌)の前癌病変と位置づけられている。両病変では、hMLH蛋白の発現低下を半数以上で認められた。クロム酸塩の発癌において、hMLH蛋白の異常は、発癌の早期に関わっている可能性がある。 この結果は、私たちがクロムに暴露した肺癌で推測する肺癌課程-クロムの発癌においては、DNA修復遺伝子hMLH蛋白の発現の低下→gene instibilityの増強→癌関連遺伝子の異常、というpathwayを強く示唆するデータである。
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