研究概要 |
非小細胞肺癌の治療成績向上のために、抗腫瘍剤の有効性に関連する分子マーカーについて包括的解析を行い、個々の肺癌患者に対して抗腫瘍剤を選択する「オーダーメイド化学療法」を我々は臨床実用している。5-FUに関与する分子マーカーとして、その標的酵素TSと活性化酵素OPRT、分解酵素DPDがある。経口5-FU抗腫瘍剤を術後投与した非小細胞肺癌では、TS低発現及びOPRT高発現、DPD低発現が、独立した予後良好の因子であることを我々は示した。一方、epidermal growth factor receptor(EGFR)遺伝子の変異がEGFR特異的TKIの有効性に関与するため、パラフィン標本から簡便で高感度にEGFR遺伝子変異を解析するプロトコールも我々は開発した。アポトーシスも抗腫瘍剤の有効性に影響しており、我々はアポトーシスに関与するp53についてもその機能調節遺伝子と標的遺伝子を包括的に解析し(Huang, et. al,Future Oncol 2007)、HAUSPの発現減弱が、p53蛋白と標的遺伝子p21とbaxの発現減弱に関わることをみいだした(Masuya, et. al,J Pathol 2006)。更に腫瘍内E2F1過剰発現により、TSとアポトーシス抑制因子survivinの発現が誘導されていること(Huang, et. al,Clin Cancer Res 2007)、survivinの機能がスプライスバリアントにより異なることも明らかにした(Nakano, et. al,Br J Cancer 2008)。また、cDNAマイクロアレイによる網羅的解析により、Wntシグナルが癌に関与することを我々はみいだし、非小細胞肺癌における臨床的研究でも、腫瘍内Wnt1発現がc-MycやMMP-7などの標的分子の発現を誘導し、予後不良因子であることも明らかにした(Liu, et. al,Lung Cancer 2007;Nakashima, et. al, Oncol Rep 2008)。今後も我々は更に多くの分子マーカーの同定を目指し、オーダーメイド化学療法を肺癌診療で広く役立ててゆきたい。
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