研究概要 |
悪性グリオーマ組織で高発現している蛋白質を直接の治療標的とする新規治療法の有効性を検討した。我々はこれまでに、二次元電気泳動を基盤としたプロテオミクスの応用により、悪性グリオーマ組織で高発現している蛋白質群を網羅的にスクリーニングし、19個の蛋白質を同定した(Iwadate et a1.,2004、2005)。それらの中でcathepsin Dというアスパラギン酸プロテアーゼが腫瘍組織のみならず、患者血清中にも高濃度で存在し、血清診断に応用可能なグリオーマ・バイオマーカーとなりうることも証明した(Fukuda et al.,2005)。また、この蛋白が高発現しているグリオーマ患者では、髄腔内播種が高頻度に認められ生存期間も有意に短いことも明らかとなった。本年度は、5つのヒトグリオーマ細胞株(cathepsin D高発現株2種:A172,U87MG、低発現株3種:U138MG, U251MG, U373MG)を用いて、RNA干渉(RNAi)を用いたin vitroの遺伝子発現阻害実験を行なった。その結果、Al72、U87MGにおいて有意なカテプシンDの発現低下が確認され、invasion assayによる浸潤能がそれぞれ約60%、50%低下していた。低発現株においてもU138MGで約50%、U373MGで約40%の低下を認めた。U251MGでは浸潤能の低下は認められなかった。したがってカテプシンDは、診断用マーカーのみならず治療標的としても好適であり、その発現を抑えることにより腫瘍細胞の浸潤・髄腔内播種を予防し生存期間を延長させうる可能性がある。
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