研究概要 |
悪性グリオーマ組織で高発現しているcathepsin Dを直接の治療標的とする新規治療法の有効性を検討した。このアスパラギン酸プロテアーゼは腫瘍組織のみならず、患者血清中にも高濃度で存在し、血清診断に応用可能なグリオーマ・バイオマーカーとなりうることも明らかにされている。この蛋白が高発現しているグリオーマ患者では、髄腔内播種が高頻度に認められ生存期間も有意に短いことも示されている。そこで、5つのヒトグリオーマ細胞株(cathepsin D高発現株2種:Al72,U87MG、低発現株3種:U138MG,U251MG,U373MG)を用いて、RNA干渉(RNAi)を用いたin vitroの遺伝子発現阻害実験を行なった。その結果、A172、U87MGにおいて有意なカテプシンDの発現低下が確認され、invasion assayによる浸潤能がそれぞれ約60%、50%低下していた。低発現株においてもU138MGで約50%、U373MGで約40%の低下を認めた。したがってカテプシンDは、診断用マーカーのみならず治療標的としても好適であり、その発現を抑えることにより腫瘍細胞の浸潤・髄腔内播種を予防し生存期間を延長させうる可能性がある。また、cathepsin Dは、グリオーマで大量に発現していて、正常脳では低発現であるため、ペプチドの形でワクチンとして利用することにより、効率的な抗腫瘍獲得免疫が誘導できる可能性がある。ラット脳腫瘍モデルにおいて、これらのタンパクを直接皮下ワクチンとして使用する実験を行った。しかしながら、放射線で不活化した腫瘍細胞全体をワクチンとして用いたコントロール群では半数に治癒が認められたが、cathepsin Dワクチンでは、治癒は得られなかった。不活化腫瘍細胞を陵駕するペプチドワクチンの作製には、より特異性の高いタンパク質を同定する必要があるものと考えられる。
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