脂肪酸結合蛋白(FABP)は、細胞の成長・分化に重要な役割を果たすことが解明されつつある。本研究では、一過性前脳虚血後のFABPの発現を免疫組織化学的に検討した。 【方法】 前脳虚血モデルは雄性SDラットを用い、平均血圧を40-45mmHgに低下させ、両側総頸動脈を5分間閉塞して作成した。虚血4、8、12日後に灌流固定・断頭し、coronal sectionを作成した。脳型(B-)、上皮型(E-)、心臓型(H-)FABP一次抗体を用いて免疫染色を行った。また、B-FABPに関しては新生神経細胞における発現を検討するためbromodeoxyuridine (BrdU)(50mg/kg、2回/日)を虚血後7日間連続投与し、虚血8日後に灌流固定・断頭した。B-FABP、BrdUおよび各種神経細胞マーカーによる多重蛍光免疫染色を行い、共焦点顕微鏡を用いて観察した。 【結果】 虚血8、12日後では、海馬歯状回subgranular zone〜granular zoneで、B-およびE-FABP陽性細胞が増加していた。大脳皮質、海馬hilus、海馬錐体細胞層のastrocyteでは、虚血4、8、12日後でB-およびE-FABPの発現が増強していた。遅発性神経細胞死を起こしているCA1錐体細胞には、発現はなかった。また、H-FABPの虚血後脳での発現は、いずれの部位にも認めなかった。 虚血8日後におけるB-FABP・BrdU陽性細胞は、神経前駆細胞マーカー(Nestin・DCX)に共陽性だった。 【考察】 B-およびE-FABPは、虚血部位のastrocyteや神経前駆細胞に発現している可能性が示唆された。FABPノックアウトマウスを用い、虚血性神経障害や虚血後神経再生における役割を今後検討する必要がある。
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