研究概要 |
脳型脂肪酸結合蛋白(B-FABP)は、脂肪酸の細胞内への取り込みのみならず、細胞の成長・分化に重要な役割を果たすことが解明されつつある。本研究では、一過性前脳虚血後のB-FABPの発現を検討し、更にB-FABPノックアウトマウスを用いて、虚血性神経障害および虚血後神経新生における役割について検討した。【方法】前脳虚血モデルは、両側総頸動脈を30分間閉塞し作成した。虚血性神経障害は、虚血3日後の海馬を組織学的に評価した。虚血脳でのB-FABPの発現は、免疫組織化学的に検討した。新生細胞のマーカーにはbromodeoxyuridine(BrdU)を使用し、虚血後7日間連続投与した。虚血8日後に灌流固定・断頭し、B-FABP、BrdUおよび各種神経細胞マーカー(Nestin,NeuN,GFAP)による多重蛍光免疫染色を行った。【結果】前脳虚血後、傷害部位周囲のグリア系細胞および海馬歯状回顆粒下層(SGZ)でB-FABP発現の充進を認めた。SGZのB-FABP陽性細胞の多くはBrdUおよびnestinと共陽性しており、また一部はGFAPと共陽性していた。海馬の虚血性神経障害は、wild typeマウスとB-FABPノックアウトマウスで明らかな差を認めなかった。Wild typeマウスでは、虚血後、海馬歯状回のBrdU陽性細胞数が著明に増加(584.2/mm2)したが、ノックアウトマウスではこの増加が抑制される傾向を認めた(362.8/mm2)。【考察】B-FABPはradial gliaおよび未熟な新生細胞に発現し、虚血後神経新生において重要な役割を担っている可能性が示唆された。今後は、B-FABPの神経分化へ与える影響や他のFABPに関しても検討する必要がある。
|