研究概要 |
生後12週-14週の雄性成体Wistarラットに、既報告の方法(Kim P, et al.Ann Neurol 55:503-511、2004)で慢性脊髄圧迫を施した群と偽手術群とを設けた。当初計画していたC12-IAP法では時間的制約が大きく、技術的障害を回避できなかったため、血流測定はPowers KM, et al.Journal of Neuroscience Methods 87:159-165,1999のマイクロスフェア法に準じた。すなわち、右大腿動脈より左心室内へ蛍光色素マイクロスフェアを0.1mL注入し、潅流固定の後脊髄を含む脊椎、肝臓、左小脳半球を摘出。処理後の各組織片の蛍光と血液の蛍光から、組織血流量を推定した。その結果、慢性脊髄圧迫群と偽手術群との間に、圧迫部対頭側部の蛍光に統計的有意差が認められた。すなわち、慢性脊髄圧迫群では、上肢運動を支配する前角運動神経細胞が他部位よりも多く存在する頚膨大(C5-6)の血流よりも、その頭側(C3-4)で血流が増加していた。圧迫部分の脊髄機能を代償すべく頭側の脊髄機能が亢進したために血流が上昇しているのか、圧迫部の血流が低下した結果相対的に頭側の血流が高くなっているのかは不明であり、解明のためには脊髄血流量絶対値を計測する必要がある。この技術を確立し、手術で圧迫を解除した後に血流がどのような変化をするのかを定量的に計測する予定であったが、残念ながら未決の課題が残された。慢性脊髄圧迫での血流動態を定量化できれば、様々な血流改善薬の効果を計測し、脊椎症性脊髄症の薬物治療に役立つ知見が得られる。今後もさらに研究を推進する予定である。
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