研究概要 |
脳腫瘍の代表的疾患である悪性神経膠腫(glioma)は近年の画期的な医療の進歩にも拘らず未だ治癒率は低く,新規治療の開発が必須である.ヒストンのアセチル化の制御はDNAクロマチン構造の変化を介した遺伝子転写の調節機構として注目されており,近年ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤が癌治療の有力な新規分子標的剤として臨床試験を含め精力的に研究が進められている.内因性のdeath factorであるTRAILは,腫瘍細胞に選択的に細胞死を誘導する機能から新規癌治療薬として期待されているが,gliomaにおいては耐性を示す腫瘍もあり,その効果増強が望まれている.HDAC阻害剤SAHAの治療により多くのglioma細胞株でTRAIL受容体であるDR5に特異的ヒトモノクローナル抗体療法に対する相乗的殺細胞効果が認められた.相乗効果の分子機序として,SAHA治療によるアポトーシスシグナルに関与する細胞死抑制因子c-FLIPの発現抑制が認められ,c-FLIPをglioma細胞に強制発現させることでSAHA+抗DR5抗体治療への抵抗性が獲得された.逆に,glioma細胞のc-FLIP発現をsiRNAにより抑制することで,抗DR5抗体への感受性が著明に亢進した.SAHAにより一部の細胞株ではc-FLIPのmRNAレベルの低下が認められたが,proteasome阻害剤ではc-FLIP発現抑制は抑制されなかった.従って,本相乗効果はSAHAによる転写抑制による可能性が示唆された.今後,更に本併用療法の動物モデルでの効果を検討する予定である.
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