Glioblastomaをはじめとする神経膠腫(グリオーマ)は難治性の腫瘍であり、日本脳腫瘍統計によれば、WHO分類(グレード1-4)のグレード2に相当するびまん性星細胞腫の5年生存率は66%、グレード4の膠芽腫では7%にすぎない。神経膠腫が難治性の理由として、腫瘍が正常脳に浸潤性であること、また放射線、化学療法に耐性であることがあげられる。本研究は、これらを克服するために役立つ科学的基礎知識を集積する事を目的として行なわれた。 グリオーマ細胞の浸潤性を規定する因子は種々のものが提案されているが、我々は、in vitroで細胞の運動性を刺激する因子として同定されていたlysophosphatidic acid(LPA)を産生する酵素autotaxin(ATX)が神経膠腫の浸潤性への関与を本研究で検討した。マウスグリオーマ細胞203GにATXをtransfectし、in vitroでの浸潤性を検討したところ、腫瘍細胞の運動性、浸潤性が亢進した。 一方、脳腫瘍摘出組織において、ATXのmRNA発現を検討したところ、神経膠腫において、悪性度が増加するにつれて、ATXの発現が高いこと、良性脳腫瘍においては、低発現であること、また転移性脳腫瘍(がん脳転移)組織では発現の高い例は少ないことが判明した。また、グレード2の神経膠腫において、ATXの発現の高い例で早期に再発し、本酵素と悪性度の相関が示唆された。
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