脳腫瘍治療には、手術、放射線治療、化学療法などの集学的治療が必要である。しかし、全身投与による化学療法は脳血管関門の存在から脳腫瘍に対しては効果に限界がある。また、悪性脳腫瘍が髄腔内播種は起こすが遠隔転移を起こさないという特性から本疾患に最も適した術後化学療法は脳局所療法であり、有効なDDSの開発は治療に苦慮している本疾患に対して福音となる。 (1) 温度可逆性ポリマーの使用 本研究開発の特色・独創的な点は、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の手段として温度可逆性ポリマーを使用することである。本ポリマーは、完全科学合成物で、温度感応性高分子と親水性高分子との共重合体であり、疎水性・親水性に関わらず各種薬剤・サイトカインなどを自由に包埋することができる。また、0度で流動性のゾル、室温以上でゲル状という特異な物性を示し、分子設計により任意に転移温度を設定することができる。また、転移温度を変化させることで包埋した薬剤の徐放時間を調節することが出来る。このことから、従来のポリマーの欠点である腫瘍摘出腔内での不安定性、脱落の問題や、腫瘍摘出腔全体に塗布することが出来ないことなど問題を解決することが出来る。 (2) プロテオソームインヒビター プロテオソームインヒビターは、細胞内の蛋白合成を阻害し細胞死を誘発することにより変性疾患等の疾病を誘導すると考えられている。近年、プロテオソームインヒビターを化学療法剤と併用することにより腫瘍細胞に対する薬剤の効果が上昇する報告が散見されるようになった。プロテオソームインヒビターと化学療法剤の併用により抗腫瘍効果が増加する治験が得られれば新たな脳腫瘍治療法の可能性を示せることとなる。
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