研究概要 |
目的:脳卒中後の早期からの適切なリハビリテーションは、脳機能回復に不可欠である。小動物を用いた実験的研究においても、環境の充実が機能予後の改善をもたらすことが報告されている。しかし、運動を含む環境の充実が、どのようなメカニズムを介して脳機能回復に繋がるのか、未だ明らかにされていない。本研究の目的は局所脳虚血ラットを用いて、環境刺激による機能回復に関与する遺伝子・蛋白を同定することで、そのメカニズムを明らかにすることである。 方法:動物は、一過性中大脳動脈閉塞を行った局所脳虚血ラットを用いた。ラットを通常ケージで単独に飼育する群(Standard群)と運動器具が備えられた充実した環境で飼育する群(Enrich群)に分けた。虚血前後と2週間,4週間後の神経、運動機能評価を行った。4週間評備後に屠殺し梗塞巣サイズ、脳組織での遺伝子、蛋白発現を検討した。梗塞サイズはMAP-2染色を、遺伝子発現はmicroarray analysis、real time quantitative RT-PCR、蛋白発現は免疫組織染色を用いた。 結果:梗塞巣サイズは両群間に有意差はなかった。運動機能はEnrich群がStandard群に比し有意に改善した。Microarray analysisより、Enrich群ではBrain derived neurotrophic factor(BDNF)、Early growth responsel,2遺伝子発現がStandard群に比べて低下しており、RT-PCRでも同様な結果であった。BDNF蛋白発現は、Enrich群がStandard群に比べて低下していた。 考察:我々の研究より、神経保護・再生に促進的に作用するとされてきたBDNFが環境刺激によって低下し、脳虚血後の機能回復に関与している可能性が示された。本研究結果を解釈する上で、脳梗塞発症後の時間経過によるBDNFのはたらきに違いがある可能性が考えられた。そこで現在、発症2週間後のBDNF発現についての追加実験を行っている。更に、BDNFはその前駆体と相反する作用を有するとの報告があり、今回の結果が前駆体の発現を反映した可能性が考えられた。現在、Western blottingを用いてBDNF前駆体の発現の有無を検討している。
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