研究概要 |
滑膜肉腫は15〜40歳の若年に好発する比較的頻度の高い肉腫の一つで、肺転移、リンパ節転移を来すこともあるため、診断治療のみならず腫瘍発症メカニズムの基盤的解明は重要な課題になっている。近年、本腫瘍に特異的な染色体転座が同定され、第18染色体上のSYT遺伝子とX染色体上のSSX遺伝子の融合型遺伝子SYT-SSXが滑膜肉腫の90%以上で検出されることが明らかになった。SYT遺伝子は遺伝子発現促進に関わる転写調節因子であり、SSX遺伝子は発現抑制に関わる転写調節因子であると考えられているが、その働きはまだ解明されていない。本研究では、SYT-SSX蛋白による滑膜肉腫発症機構を明らかにするためにSYT-SSXを介したプロテオーム解析を行い、SYT-SSXと相互作用する蛋白群を明らかにすることを目的としている。 (1)SYT蛋白、SSX蛋白、SYT-SSX蛋白と結合する蛋白群の検出 抗体認識用FLAG-Tag(10アミノ酸)およびPull-down用GST蛋白の融合蛋白として発現するSYT,SSX,SYT-SSX cDNAのプラスミドベクターを構築し塩基配列の確認を行った。このGST領域はGlutathioneビーズに結合することによりGST融合蛋白分子およびその複合体を沈澱させる(pull-down)ことが可能になる。ヒト正常腎細胞株HEK293に遺伝子導入し、GlutathioneビーズでGST融合蛋白をPull-down後、抗FLAG抗体でウエスタンブロットを行ったところ、各GST融合蛋白がpull-downされている事を確認した。今後は、細胞質分画と核分画にGlutathioneビーズさらにアガロースビーズ付きFLAG抗体を反応させ、遠心、洗浄後FLAG付きSYT,SSX,SYT-SSXとそれに結合している複合体を回収し、SYT,SSX,SYT-SSXに結合する新規の複合体蛋白群を同定する計画である。 (2)蛋白修飾による細胞内局在変化の検討 SYT,SSX,SYT-SSX蛋白の修飾解析を行ない、その修飾を抑制することによる腫瘍化の阻害効果を検討している。まず、SYT、SSX、SYT-SSX蛋白の局在を明らかにするために、SYT,SSX,SYT-SSX cDNAを蛍光蛋白標識用の発現ベクターに導入した。さらに、蛋白修飾に関わると考えられる遺伝子cDNAを別の発現ベクターに組み込んだ。それぞれのベクターを組み合わせて発現させる為に、現在、Reverse transfection法により8-Wellチャンバーに効率良く導入するシステムを検討中である。その条件が決定でき次第、蛋白修飾に関わる遺伝子群のSYT、SSX、SYT-SSX蛋白の局在に与える影響を検討する計画である。
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