陽電子放射線断層撮影Positron Emission Tomography (PET)は、分裂の盛んな癌細胞が多量のブドウ糖を必要とするため、ブドウ糖に類似したfluoro-2-deoxyglucose(FDG)を取り込むことを応用した診断方法で、各種の癌において、これまで判らなかった小さな病巣まで診断可能であることが報告されている。各種の癌細胞がFDGを取り込むことに着目し、FDGに抗癌剤を結合すれば効率のよい取り込みが期待できると仮定した。Dipalmitoylphosphatidylcholine(DSPC)、 Cholesterol、 FDGを5:5:2の比率で混合し塩酸ドキソルビシン(DOX)を加え調製した、細網内皮系に捕らわれにくく血管透過性の高い、100nm以下のサイズのリポソームを作製した。ラットの背部にMSK細胞を移植し、2週間後に骨肉腫の長径が10mm以上になったことを確認し、DOXが5mg/kgになるように換算し各治療薬を投与した(n=6)。治療開始1週間後の腫瘍体積はコントロール群が46.5±18.7cm^3、 DOX群が13.2±8.7cm^3、 DOX-L群が18.8±7.4cm^3、 DOX・FDG-L群が6.2±6.0cm^3で、いずれの治療群も腫瘍体積がコントロール群に比べ有意に小さかった。DOX静注群とDOX封入リポソーム静注群の効果は治療開始2週間後以降には明らかな有意差はないものの、コントロール群に比べ優れている傾向が認められた。DOX・FDG封入リポソーム静注群は各週ともにコントロール群に比べ有意に優れていた。各群間の有意差を示すためには、さらに個体数を増やす必要があるものの、DOX・FDGリポソームは血中停滞性と腫瘍のFDG取り込み機構を利用することにより薬剤を効率的に腫瘍に蓄積させ、抗腫瘍効果を発揮することが示唆された。
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