研究概要 |
ホールセル・パッチクランプ法を適用して,脊髄前角細胞において単一細胞レベルでアデノシンの作用機序について検討を行った.深麻酔下に,幼若Sprague-Dawley系雄性ラットの脊髄を摘出して,脊髄横断スライス標本を作製した.近赤外線システムを装備する顕微鏡を用いて脊髄前角細胞から記録を行い,アデノシンおよびアデノシンA_1受容体作動薬を灌流適用すると,ほとんど全ての脊髄前角細胞においてグルタミン酸を介する興奮性シナプス後電流の発生頻度は有意に減少した.したがって,アデノシンならびにアデノシンA_1受容体作動薬はシナプス前のアデノシンA_1受容体に作用して興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の遊離を抑制した.また,アデノシンおよびアデノシンA_1受容体作動薬を灌流適用すると,半数以上の脊髄前角細胞において外向き電流(過分極応答)が観察された.すなわち,アデノシンならびにアデノシンA_1受容体作動薬はシナプス後細胞である脊髄前角細胞に発現しているアデノシンA_1受容体に直接的に作用して過分極させることが明らかとなった.脊髄損傷における二次損傷の原因として,グルタミン酸毒性や細胞の過剰興奮が考えられているが,アデノシンならびにアデノシンA_1受容体作動薬によるアデノシンA_1受容体の活性化によって細胞レベルにおいてこれらの神経毒性に拮抗する可能性が示唆された.以上の結果から,脊髄損傷の急性期の治療薬としてアデノシンおよびアデノシンA_1受容体作動薬が有効である可能性が示唆された.
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